【本日のアゲ本】NYでもがき生きる日本人女性に、人生を学ぶ

『ピンヒールははかない』

佐久間裕美子 著 / 幻冬社

高めのピンヒールを履いて街を歩いていたら、マンホールの蓋や排水溝に引っかかって前につんのめった…あるあるネタですね。どうも利便性はあまり良くないのに、ついつい買ってしまうヒールやパンプス。この不思議な靴に抱く想いは人それぞれだと思いますが、大学を卒業してからニューヨークに移住した著者の佐久間さんはこのように語ります。

(中略)自分だって、パンプスやヒールを、ほぼ日常的にはいていた時期がある。社会に出たら、女性的な靴をはくものだと思っていたのだ。特に勤めていた頃は、童顔だからなめられたくないと、無理して大人に見られようと背伸びしていた気がする。

大人の女性の象徴であり、女性らしさを表現する道具としてのヒール。しかし、歳を重ねるうちに気づけば持っている靴はバンズとコンバースのスニーカーばかり。ニューヨークは道がデコボコで廃油や汚水が流れていたりするからヒールに向かない、という理由だけではありません。

一生懸命生きれば生きるほど、人生は簡単ではない、と実感する。でもせっかくだったら、フルスロットルでめいっぱい生きたい。40代になってつくづくそう実感することが増えた。時間は短い、やりたいことはいくらでもある。迷っている暇はないのだ。だから自分の足を減速させるピンヒールははかない。

何ともしなやかで、清々しい言葉だと思いませんか?肩の力を抜いて、難しいことばかりの人生を自分に正直に精一杯生きよう。そんな力強いメッセージが表題『ピンヒールははかない』には込められているのです。

なお、この本はピンヒールについて書かれたものではありません。大都会ニューヨーク在住20年、ブルックリンでシングルライフを生きるライターの佐久間さんが、自らのニューヨーク生活や、まわりのニューヨーカー達の生活を描くことで、女性たちの生き方について考えるヒントを与えてくれるエッセイとなっています。

その中には元夫の死や暴行されたことを公表した人、現大統領の様々な発言について傷ついたことなど、辛くて重たいエピソードもたくさんあります。しかし、人生の苦難にもがきながらも自分と向き合い、仲間と助け合って精一杯生きる様子に、読んでいるうちにジワジワと生きるパワーをもらえます。

仕事、結婚、出産、子育て、離婚…人生の岐路が多い女性だからこそ、常に人生に対する悩みや迷いはついて回るもの。そんなとき、同じ女性として、自己を肯定しながらもがき生きる佐久間さんや、そのまわりのニューヨーカーたちの生き様は、勇気がもらえること間違いなしです。人生に悩んでいる時こそ手にとって、前のめりになって読んでいただきたい名著です!