【エッジーナの名言】  田辺聖子「ただしい、と、たのしい、一字ちがいで、えらいちがいや」

“ただしい、と、たのしい、一字ちがいで、えらいちがいや。”

ーー田辺聖子

田辺聖子(1928-2019)

作家

 

2019年6月6日、作家の田辺聖子さんが91歳で死去しました。映画化もされた代表作『ジョゼと虎と魚たち』や『言い寄る』など、人間の奥深さを捉えた恋愛小説やユーモアに満ちたエッセイで人気を集めた作家でした。

1928年大阪市に生まれた田辺さんは、幼い頃から小説が大好きでした。未成年の時代を戦争とともに過ごし、写真館だった実家は空襲で焼失して終戦直後にお父さんを亡くすという辛い経験もしています。その後、大阪の金物問屋に就職して一家の生計を支えながら、小説を書き始めます。

すると、1956年に『虹』で大阪市民文芸賞を受賞、翌年には『花狩』が雑誌の懸賞小説に入選し、ラジオドラマにも採用されます。その後も果敢に執筆活動を続け、1964年には『感傷旅行』で純文学の最高権威である第50回芥川賞を受賞。女流作家の寵児として一世を風靡します。その後は純文学から恋愛小説やエッセイへと軸足を移すほか、古典文学を刷新する歴史小説にも挑戦し、吉川英治文学賞や菊池寛賞、泉鏡花文学賞などを次々と受賞。

男女関係の機微を描いた物語や大阪弁を使った軽快な語り口、綿密な調査で描く歴史上の人物の生涯など、印象的な作品で多くのファンを獲得していった田辺さん。プライベートでは、大阪の文学仲間の故川野彰子さんに追悼文を寄せたことが縁で、その夫で神戸で開業医をしていた川野純夫さんと知り合って結婚。事実婚ではありましたが、純夫さんの連れ子である幼い4人の子を、田辺さんは母親として育て上げたのです。

36歳での結婚、しかも4人の連れ子を育てることになり、まわりからは「大変なご苦労を」と言われることも多かったそうですが、本人はどこ吹く風。大家族に育ったから慣れているし、それぞれ性格が違うから楽しかったと振り返っています。

年齢を重ねてからも、『姥ざかり』『人生は、だましだまし』『老いてこそ上機嫌』といった小説やエッセイで、楽しく前向きに生きる姿を描いて人々を面白おかしく勇気付けてくれました。「ただしい、よりも、たのしい」。辛いことや迷うことがあったときに是非とも思い出したい言葉だと思います。